相続登記に必要な戸籍が廃棄・焼失していて取得できない場合
司法書士の髙木です。
日頃、業務で数々の相続登記事例を取り扱いますが、中には少し複雑なケースもあります。
今回は、私が以前に担当した事例をご紹介します。
高齢のお兄様がお亡くなりになって、相続の相談にご来所された弟様。
お兄様は独身でお子様もおらず、ご両親も30年以上前に亡くなっておりましたので、弟様が相続人になり、お兄様の所有していた不動産を相続することになりました。
相続の手続きは、まずは必要な戸籍を取得することから始めていきますが、ちょっと困ったことがありました。
それは、ご両親の「戸籍の一部が保存期間経過により廃棄されている」状態だったのです。
ご家族が亡くなって不動産を相続する手続きを行うとき、添付書面として被相続人の出生から死亡までの戸籍・改製原戸籍や除籍謄本等を法務局に提出する必要があります。
これは相続人が誰なのかを確認・特定するためです。
戸籍を追うことで、他の相続人が誰も知らない子どもが明らかになるケースも実はあるのです。
戸籍は、亡くなった方の本籍地や最後の住所を基に、過去に遡って順に取得し、その過程で家族関係が明らかになって相続人が特定されていくのが一般的です。
戸籍がきちんと繋がっていれば、問題なく相続人も特定されます。
しかし、今回のように「戸籍が保存期間経過により廃棄又は戦災等により焼失しており一部取得ができない等の場合」も少なからずあります。
戸籍がすべて揃っていなければ、相続人の証明にはなりませんし、だからと言って残っていないものは再製することはできません。
このような場合、相続登記はできないのでしょうか?
答えは、もちろん「可能」です。
しかし、戸籍が繋がっていないことの「証明」を提出する必要があるのです。
この証明は、「「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書」で、市役所等で発行される廃棄証明書や焼失証明書にあたります。
これらを提出すれば、戸籍がつながっていなくても相続登記は受理されます。
また、従来は、実務上、「他に相続人のいない旨」の相続人全員による証明書の提出も必要とされていましたが、この書類も不要となるわけです。
つまり、戸籍が交付されない理由を役所から証明してもらうことができれば、相続登記ができるということになります。
【参考】民法では以下のように定められています。
「相続を証する市町村長が職務上作成した情報(不動産登記令別表の22の項添付情報欄)である除籍又は改正原戸籍(以下「除籍等」という。)の一部が滅失していることにより、その謄本を提供することができないときは、戸籍及び残存する除籍等の謄本に加え、除籍等(明治5年式戸籍(壬申戸籍)を除く。)の滅失等により、「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書が提供されていれば、相続登記を受理して差し支えない(平成28年3月11日民二219)」
一方で、このようなケースもあります。
「発行可能な戸籍中、相続人に該当する者が確認されるが、その者に関する他の戸籍が廃棄又は焼失により存在せず、その者の現在の生死や所在が不明の場合」
例えば、被相続人の古い戸籍に子供として記録されている者がいるが、その者が婚姻により親の戸籍を抜けて新たに入籍した先の戸籍が火災により焼失していており、現在までの戸籍が追えない場合等が考えられます。
このケースは、「現存する戸籍から確認できる以外の相続人がいるかがわからない」という最初のケースとは、「相続人に該当する者が戸籍上確認されるが、その者の現在の状況(死んでいるのか生きているのか等)が、戸籍の廃棄等により不明」、という点で異なります。
こちらの場合は、手続きがもう少し複雑になります。
単に廃棄証明書や焼失証明書を添付するだけでは相続による不動産名義変更の手続きはできません。
実際にどのような手続きや書面が必要かは、法務局と相談して進めていくこととなるかと思いますが、相続人のうち、戸籍の廃棄等により現在の生死や所在等が不明の相続人については、失踪宣告の申し立てや不在者財産管理人の選任を申し立てて手続きを進める必要が出てくると考えられます。
現在の戸籍の保存期間は「除籍になったときから150年」と定められています。
しかし、これは平成22年に改正された法律によるもので、それ以前は「除籍から80年」で廃棄されていました。
特に何代にもわたり放置していた相続や今回のような兄弟姉妹の相続など、古い時代まで遡って戸籍を追う必要があるケースはこのような問題が起こり得ます。
通常の相続手続きよりも時間も労力もかかりますので、お早めにご相談くださいませ。